(1)週刊東洋経済 (2009/7/18) に、
「医療の再生」 に関する二木立・日本福祉大学教授 (副学長) のインタビュー記事が掲載されていますので、その一部を下記に示します。
<質問>
医療の再生にはどんな手立てが必要でしょうか。
<二木教授の回答>
よりよい医療制度を目指した改革を行ううえでは、3つの幻想を捨てる必要がある。
第1の幻想は、抜本的改革が必要だという考え方だ。
医療は赤ちゃんからお年寄りまで全国民を対象とした唯一の社会保障制度であるだけに、すべての利害関係者に大きな影響を及ぼす抜本改革は不可能。
これは国際的常識だ。
すべての国民が最適な医療を公平に受けられるという医療保障の理念を明確にしたうえで、部分的な改革を積み重ねていく以外に方策はない。
第2の幻想は、外国の制度のよいところを選択的に導入すれば日本の医療制度は改革できるというものだ。
だが、医療制度はその国の歴史と文化に根差している以上、それを踏まえて改革を行わざるをえない。
そして第3の幻想は、医療には無駄があるから、効率化によって、医療の質の向上と医療費抑制の両立が可能だということ。
これは医療経済学的に否定されている。
医療の質の向上には、医療費拡大が不可欠だ。
重要なことは、医療再生の必要条件と十分条件の区別だ。
必要条件とは、医療費抑制政策と医師数抑制政策の見直し。
日本の人口当たり医師数と医療費水準が主要先進国 (G7) で最下位だという事実は、医療費抑制を強く唱えた09年の財政制度等審議会建議ですら認めている。
ただ、これら両者の見直しは必要条件であり、これができれば医療問題が自動的に解決するわけではない。
(2)一方、2009年7月9日の社会保障審議会医療部会において、堤健吾委員 (日本経団連医療改革部会部会長補佐) が提出した平成22年度診療報酬改定等に関する意見書は、下記の通りです。
平成22年度の診療報酬改定等に関連し、以下の通り意見を提出いたします。
①診療報酬の引き上げを求める声が強まっているが、改定率の検討にあたっては、昨今の経済情勢、健保組合の財政情勢などに十分配慮することが必要と考える。
②質の高い医療をいかに効率的に提供するかという点は今後とも重要な課題である。また、病院・診療所の再診料の格差是正は引き続きの検討課題である。特に、昨今問題視されている分野 (産科・小児科をはじめとする病院の勤務医の負担軽減策、救急医療対策など) には重点的に手当てするなど、選択と集中の考え方を基本とすべきでないか。
③医療提供体制のほころびの解消に向けて、本予算、補正予算などで各種の対策が実施されているところであるが、こうした対策と、診療報酬上の手当ての双方の役割分担を明確化するとともに、重複感を排除しつつ、相乗効果を生むような工夫が必要である。
④社会保障国民会議での検討とこれに続く 「中期プログラム」 において、医療改革の方向性はすでに示されている。今後、いつまでに誰が何を実施するのか、より具体的な工程に落とし込んで実現を図ることが必要だ。
(3)上記(1)の 「二木教授の考え方」 と上記(2)の 「経団連 (財界・大企業) の考え方」 との間の乖離を目の当たりにすると、
「医療再生・社会保障再生にはまだまだ道遠しの感あり」 といえます。
しかしながら、衆議院総選挙の投開票日が来る8月30日に決まり、民主党への政権交代の期待が高まる中、
「従来の既得権益グループによる旧態依然とした政策立案・実施プロセス」 の大変革 (真の構造改革) が成され、「医療費・医師数抑制政策、医師 (特に勤務医) の不足・地域偏在・診療科偏在、少子超高齢社会の到来、医療の高度化等による
医療崩壊 (医療破壊)・社会保障崩壊 (社会保障破壊)」 のこれまでの
「負のスパイラル」 が、
「医療再生・社会保障再生」 へと、劇的に change することが強く望まれます。