国会での党首討論 (2009/5/27) における麻生首相の発言に対して、郷原信郎氏 (元東京地検特捜部検事) が下記のような文書を出されています。
●首相が 「罪を犯す意思がない行為でも逮捕される」 と公言す
る国 (名城大学教授・弁護士 郷原信郎)
5月27日の党首討論の中で、麻生首相の口から、耳を疑うような言葉が発せられた。
「本人が正しいと思ったことであっても、少なくともは間違った場合は逮捕される」。
鳩山民主党代表が、企業団体献金の廃止の問題に言及したのに対して、麻生首相は、小沢前代表の秘書の事件とそれに関する説明責任の問題を持ち出した。
そして、鳩山代表が、「小沢前代表は第三者委員会の場で説明責任を果たした」 と述べた上で、企業団体献金を廃止すべきとする理由について、「正しいことをやっていた、全部オープンにしていた。でもそのことによっても逮捕されてしまった。ならばその元を絶たなければいけない」 と述べたことに対して、麻生首相は、次のように発言した。
<麻生>
いろいろご意見があるようですけども、まず最初に、先ほどのお話をうかがって、一つだけどうしても気になったことがありますんで、ここだけ再確認させていただきたいのですが、正しいことをやったのに秘書が逮捕されたといわれたんですか。
<鳩山>
本人としては、政治資金規正法にのっとってすべて行ったにもかかわらずと。
これは本人が昨日、保釈をされました。
そのときの弁であります。
<麻生>
基本的にご本人の話であって、正しいと思ってやったけれども、法を違反していたという話はよくある話ですから。
少なくとも、それをもって国策捜査のごとき話にすり替えられるのは、本人が正しいと思ったというお話ですけれども、本人が正しいと思ったことであっても、少なくとも間違った場合は逮捕されるということは、十分にある。
それは国策捜査ということには当たらないのではないかと私どもは基本的にそう思っております。
麻生首相は、政治資金の処理に関して、本人は正しいと思っていても間違っていた場合、つまり、「正当だと思って行った処理が結果的に虚偽だったことが判明した場合」 には逮捕される、と述べた。
今回の小沢氏の秘書の事件に関して 「本人が正しいと思ったこと」 というのは、「政治資金収支報告書の記載が正しいと思っていた」 ということであり、要するに 「虚偽だとは認識していなかった」 ということである。
その場合でも、間違った記載をした場合は逮捕されると言い放ったのだ。
一国の総理が、国会の党首討論の場で、「罪を犯す意思がない行為」 でも、結果的に間違った記載をしたら逮捕されると堂々と公言したというのは、信じられないことだ。
刑法38条1項に 「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」 と規定され、犯意が存在することが刑事処罰の大原則であることは、刑法の基本中の基本である。
検察庁を含む行政組織全体のトップである麻生首相が、その基本原則に反する発言をしたのだ。
西松建設関連の政治団体から小沢氏の資金管理団体 「陸山会」 に対して行われた寄附が政治資金収支報告書の虚偽記入に当たるとされて秘書が逮捕・起訴された事件については、そもそも、寄附者を政治団体と記載したことが虚偽記入に該当するのかどうかに重大な疑問がある。
つまり、資金の拠出者の記載を求めていない現行の政治資金規正法の下では、実質的な資金の拠出者が西松建設であっても、寄附者として記載すべきは、自らの名義で寄附という行為を行った政治団体ではないか、という点、つまり収支報告書の記載が客観的に虚偽と言えるかどうかが問題となる。
そして、仮に、客観的に虚偽だと認められた場合でも、逮捕された会計責任者の側が、収支報告書作成の段階で虚偽だと認識していなければ犯罪は成立しない。
そして、重要なことは、小沢氏側にだけに犯罪が成立し、同じ政治団体から寄附を受け取っていた自民党議員側には成立しないとすれば、その理由は、「客観的には虚偽であるが、虚偽だとの認識、つまり犯意がない」 ということしかあり得ない。
鳩山代表が、小沢氏の側だけが逮捕され、自民党議員側は何もおとがめなしだということを問題にし、その際、漆間官房副長官の 「自民党議員には捜査は及ばない」 という発言を取り上げているが、この漆間氏の発言を正当化する余地があるとすれば、その唯一の理屈は 「自民党議員側は犯意が立証できない」 ということのはずだ。
ところが、そこで、鳩山代表に対する反論として麻生首相が持ち出したのが、「犯意がなくても逮捕される」 という話なのである。
これは、自民党議員に捜査が及ばないことを正当化する理屈をすべてぶち壊す発言でもある。
この考え方に基づいて、検察が捜査をするとすれば、西松建設の関連団体から政治献金を受けていた自民党議員側もすべて逮捕しなければいけないことになる。
ところが、ここで、麻生首相は 「国策捜査」 という言葉を自ら持ち出しているが、虚偽の認識がなくても収支報告書の記載が誤っていただけで逮捕できるというのであれば、自民党議員側に捜査が及ばない理屈をすべてぶち壊しているに等しい。
このような討論が、国会の党首討論の場で、真面目な顔で行われているという現実には到底ついていけない。
こういうことは、麻生首相がお好きな、マンガかギャグの世界でしかありえないはずだ。
しかし、現実に国会で首相がそういう発言をしたのであり、しかも、信じられないことに、党首討論について報じる新聞に、この 「犯意がなくても客観的に誤っていたら逮捕される」 という麻生発言を問題にする論調は見あたらない。
法治国家においては絶対に容認できない国会の場での首相の発言が、何事もなかったように見過ごされているのである。
これは、単なる 「間違い」 とか 「無知」 というレベルで片付けられることではない。
犯意がなくても逮捕できる、首相が公言し、それが許容される。
戦前の治安維持法の世界を思わせるような恐ろしいことがこの国に起きている、という現実に、我々は向き合わなければならない。
(1)刑法に関してド素人である当ブログ管理人でも、郷原氏の論理は明快に理解できます。
麻生首相は、党首討論時の上記発言を撤回し、国民に謝罪すべきと思われます。
(2)公人たる政治家の責務として、「透明性・説明責任・結果責任」 が挙げられます。
小沢氏 (前民主党代表) には、西松建設献金事件に関して、公設第1秘書の裁判に支障のない範囲で、更なる説明責任を果たして頂きたいと思います。
特に、「特定の準ゼネコン業者から長年にわたって多額の献金を受けていた理由ならびにそのお金を何に使ったのか」 を我々一般国民に分かるように懇切丁寧に説明して頂きたいと思います。
小沢氏ご本人は充分に説明尽くしたと思われているとしても、多くの一般国民は未だ納得していないと思われます。(マスメディアの偏向報道のせいかも知れませんが・・・)。
(3)一方、同じ構図で西松建設から献金を受け取りながら、司直の手が入っていない 「二階経済産業大臣をはじめとする多くの自民党国会議員」 にも、一般庶民の感覚からすると、説明責任があると思われます。
当該自民党国会議員ならびに自民党総裁でもある麻生首相には、政治家の責務として、我々一般国民が理解できるように、懇切丁寧に説明して頂きたいと思います。
(4)我々一般国民は、「800兆円を超える膨大な国の財政赤字、膨大な税金の無駄使い」・「独立行政法人・特殊法人・公益法人等への天下り問題、各種公益法人での税金の無駄使い (含、随意契約・業務丸投げ)」・「政治とカネの問題」・「世界的な大不況・日本の景気回復の行方」・「年金・雇用・医療・介護・福祉等の社会保障・セーフティネットの崩壊」 等々、不安と怒りで満ちあふれています。
来る総選挙においては、「国民による政権選択」 の判断材料として、上記問題に関するマニフェストを、自民党・民主党ともに明示して、正々堂々と闘って頂きたいと思います。
選挙の結果、「自公連立政権の続投」 あるいは 「民主党の政権交代」、はたまた、大連立?・中連立??、いずれに決まっても、清新な気持ちで、政府と国民が一体となって、今後の様々な難局に立ち向かう体制の構築が望まれます。