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脳卒中急性期医療をめぐる課題と展望 (リハビリテーション)

 週刊医学界新聞 (第2820号:2009年3月2日) に、脳卒中急性期医療についての興味深い記事 (【座談会】 脳卒中急性期医療をめぐる課題と展望) が掲載されていますので、リハビリテーションに関する部分を抜粋して紹介します。

●リハビリ開始は1日でも早く

① (内山真一郎・東京女子医科大学教授)
 もう一つの課題は、急性期~回復期~慢性期にわたるシームレスな医療の実現です。今年から脳卒中専門看護師・専門理学療法士の認定が新たにスタートすることも鑑みると、他職種、他診療形態との連携がいっそう重要になってくると考えます。

② (平野照之・熊本大学医学部附属病院神経内科副科長)
 熊本では、30年以上前にわれわれの一世代前の先輩方が、神経内科におけるリハビリの重要性を強く認識され、国内の先進的な施設で勉強して県内に多くのリハビリ病院をつくられました。同じころから脳外科の先生方が救急の素地をつくっておられましたので、そこにわれわれ神経内科のグループが参加し、脳外科と協力して脳卒中急性期診療を行う、という形が自然と生まれてきました。

 私が卒業した時期、ちょうど先輩の橋本洋一郎先生が国循から戻られた1987年ごろは、救急で入院すると2~3か月してやっとリハビリの転院を考えようかという時代でした。ですから、リハビリ病院の先生から 「あんたたちは、脳卒中の患者さんをスルメにして送ってくるから困る。それをイカに戻すには、ずいぶん時間がかかる」 と言われました (笑)。とにかく、早く送ってほしいと。実際、長期間安静にされた患者さんよりも、ともかくリハビリを早く始めた患者さんのほうが圧倒的に回復がいいということが年を経るごとにわかってきたのです。いまは救急の病態をなるべく早く落ち着けて、早期にリハビリが始められることを急性期のゴールにしていますし、入院したその日から、関節可動域訓練や体位交換といった他動的なリハビリを始めるようにしています。15年以上前から 「電話1本1週間」 をキャッチフレーズに、急性期と回復期で連携を取りながら進んできました。

③ (内山) 長尾先生のところでは、リハビリや後方病院の確保についてはどうされていますか。

④ (長尾毅彦・東京都保健医療公社荏原病院神経内科医長)
 東京の泣き所はリハビリ病院の少なさで、全国でいちばん苦労している地域ではないかと思います。現在、回復期リハの病院は関東地域でも増えつつあり、10年前と比べると状況はかなり改善しています。それでも入院期間は熊本より1週間から10日ほど長くなってしまうのが実情です。

 そこでカギとなるのが、急性期のリハビリです。回復期のリハビリを受けるまでの2~3週間がブランクになると、それこそスルメになってしまいます。それを防ぐためには、発症直後から回復期に負けないレベルでしっかりと急性期リハビリを行い、その上で回復期リハビリ病院への転院を待機する。私は、それが comprehensive stroke center の大きな役割の1つだと考えています。特に、東京のようになかなか転院先が決まらない地域であれば、より急性期のリハビリを重要視して、患者さんの早期回復を狙うべきです。とはいえ、実際に急性期リハビリの体制が整った脳卒中基幹病院は多くないので、今後、リハビリをペアにした脳卒中センターという概念をもう少し強調すべきではないかと考えています。

 当院でも、たかだか2~3日リハビリの開始を前倒ししただけで、すべての回転がスムーズになり、患者さんの状態もよくなるというデータがわずか1年で出てきました。「ああ、こんなに違うんだな」 と実感しましたね。急性期リハビリ脳卒中ケアユニット加算にも入っていることでもあり、そのあたりの認識を、脳卒中の専門医も持つべきだと思います。

 上記に関する当ブログ管理人の考察・結論は、下記の通りです。

(1)上記①の通り、脳卒中医療において、急性期~回復期~慢性期にわたるシームレスな医療の実現が重要です。
 リハビリテーションにおいても、(健康増進リハビリテーション~生活機能低下予防リハビリテーション~) 超急性期・急性期リハビリテーション~回復期リハビリテーション~維持期リハビリテーションの、シームレスなリハビリテーション・システム (地域リハビリテーション連携システム) の構築が必要であり、特に、脳卒中の急性期リハビリテーション・回復期リハビリテーションが肝要と思われます。

(2)何故ならば、以前の当ブログ記事 [「地域リハビリテーション (CBR:community based rehabilitation)」、「脳卒中急性期医療体制の構築 (東京都脳卒中急性期医療機関 2009)」] で述べているように、実際の脳卒中医療において、(a) 不充分な急性期治療・(b) 不充分な早期リハビリテーション・(c) 「医原性」 の二次的合併症・障害 (廃用症候群・過用症候群・誤用症候群)・(d) 不充分な回復期リハビリテーションあるいは回復期リハビリテーションの欠如のため、結果的に障害の回復が不充分なまま、あるいは余計な障害まで作られた上で、介護保険・福祉に受け継がれることが未だ少なくなく、全県的な脳卒中医療、リハビリテーション・ネットワークの構築の必要性が喚起されているからです。

 上記 (a) には 「患者・家族等の脳卒中発症サインの理解不足による病院受診遅延」 とそれに伴う 「血栓溶解療法 (t-PA) の断念」、「脳卒中専門医・脳神経外科医・神経内科医の不足」、「救急・急性期病院における 24時間・365日・発症3時間以内のt-PA 治療体制の不備・未整備」、(b)・(c) には 「急性期病院サイドのリハビリテーション・廃用症候群等についての理解不足」、(d) には 「急性期病院サイドのリハビリテーションについての理解不足 (急性期病院から、リハビリテーションを充分には提供しないまま、回復期リハビリテーション病棟も経由させずに、そのまま自宅等・療養病床・老人保健施設等に退院・転院させる医療機関が未だ存在します)」 および 「回復期リハビリテーション病棟の数的不足、質の問題、および発症から入院までの月数制限」 等の関与が挙げられます。

(3)実際、上記②の通り、地域によっては、あるいは急性期病院によっては、「脳卒中の患者さんをスルメにして、回復期リハビリテーション病棟、療養病床、介護老人保健施設、あるいは在宅等に送る・送ってしまう」 ことが未だ少なくありません。
 即ち、「医原性の廃用症候群」 (例:関節拘縮、廃用性筋力低下・筋萎縮、誤嚥性肺炎、心肺機能低下・起立性低血圧、深部静脈血栓症・肺塞栓リスク、骨粗鬆症・骨折リスク、褥創、認知症・抑鬱、尿路感染症・尿路結石・尿失禁・便秘、等々) が生じて 「スルメ」 状態になった患者さんを、「イカ」 に戻すのに相当な時間を要するため、本格的な集中的な回復期リハビリテーションを施行するのがかなり遅延、もしくは施行困難となります。(あるいは、「スルメ」 状態にて在宅等に追い出されます)。

 したがって、患者さんのためには、上記②・④の通り、救急の病態をなるべく早く落ち着けて、早期にリハビリが始められることを急性期のゴールにし、入院したその日または遅くとも翌日から、ベッドサイド・リハビリテーション (関節可動域訓練・体位変換・呼吸排痰訓練・深部静脈血栓症予防・精神心理的サポート等の他動的なリハビリテーションが中心) を始める必要があります。そして、厳格なリスク管理 (「リハビリテーション医療におけるリスク管理」 参照) のもと、早期離床 (『脳卒中リハビリテーションにおける 「早期離床」 』参照) に繋げていきます。
 
 そして、上記②の通り、熊本方式でお馴染みの 「電話1本1週間」 をキャッチフレーズにした急性期病院と回復期リハビリテーション病院とのスムーズな連携が肝要です。
 一方、上記④の通り、回復期リハビリテーション病棟の少ない地域では、転院のための待機時期が比較的長くなるため、特に、充実した急性期・回復期前期リハビリテーション体制が必要と考えられます。

(4)上記④で推奨されている脳卒中センター・脳卒中ケアユニットの件については、診療報酬上の 「脳卒中ケアユニット入院医療管理料」+「超急性期脳卒中加算」 [「脳卒中急性期医療体制の構築 (東京都脳卒中急性期医療機関 2009)」 参照] の算定要件・施設基準を満たすものが、いわゆる 「脳卒中センター」 あるいは日本で言う 「ストローク・ケア・ユニット (SCU)」 で、各専門の医療スタッフが集まり組織づくりをし、チームで脳卒中の発症予防、早期発見および急性期 (発症時) 治療から超急性期~急性期リハビリテーションまでの一貫した総合的な治療を提供します。

 構成メンバーとして、「24 時間体制の、脳卒中専門医 (あるいは脳卒中の経験が深い神経内科医・脳神経外科医、脳血管内治療医)、脳卒中専門ナース等の看護師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師」・「放射線科専門医、循環器専門医、呼吸器専門医等の協力」、「リハビリテーション科専門医の関与」、「特に急性期脳卒中リハビリテーションの経験が深い理学療法士 (PT)・作業療法士 (OT)・言語聴覚士 (ST)、管理栄養士、医療ソーシャルワーカー (MSW)」 が挙げられます。
 また、高度医療機器 (CT、MRI、脳血管造影、SPECT、超音波検査等) は24時間フル稼働体制です。

 上記のような脳卒中センターが、全国の各二次医療圏に設置され、円滑に運用されれば、脳卒中急性期医療体制は、地域格差も解消され、飛躍的に進化すると思います。

 但し、急性期後の回復期・維持期の医療体制および脳卒中医療連携体制も同時に確立させないと片手落ちになり、それが、医療難民・救急難民・リハビリ難民・介護難民等を生み出します

(5)地域リハビリテーション [「地域リハビリテーション (CBR:community based rehabilitation)」 参照] に関しては、リハビリテーション従事者以外の関係機関・関係者の一部に誤解があるようですが、地域リハビリテーションは、単に介護保険下の維持的リハビリテーション (訪問リハビリテーション・通所リハビリテーション)・介護予防のみを指すのではありません。

 真の地域リハビリテーションとは、地域 (二次医療圏) における包括的なリハビリテーションシステム (CBR:community-based rehabilitation) です。
 したがって、「健康増進リハビリテーション~生活機能低下予防リハビリテーション~超急性期・急性期リハビリテーション~回復期 (集中的) リハビリテーション~維持期 (断続的) リハビリテーションまでのシームレスなリハビリテーションが、二次医療圏において円滑に進むようなシステム」 を構築する必要があります。

 また、地域リハビリテーション (CBR) の確立のためには、「緊密な病診連携・病病連携・病介 (病施設) 連携による地域医療連携・地域リハビリテーション連携システムの構築」、「医療保険と介護保険の円滑な流れ・連携」、ならびに、「リハビリテーション・マインドの啓発・啓蒙」 が重要と考えられます。

 実際、地域リハビリテーション活動にて、維持期リハビリテーション・介護予防等をいくら頑張っても、急性期・回復期リハビリテーションが不充分であれば、障害が重度化 (当初軽度障害→結局中等度障害、当初中等度障害→結局重度障害) して、どうにもなりません。片手落ちあるいはお手上げ状態になります。

 したがって、地域リハビリテーション活動として、「脳卒中や骨折等で入院した高齢者等が、発症後早期に適切なリハビリテーションが受けられるように、急性期リハビリテーションの重要性について、医療機関等に働きかける」・「医療機関に回復期リハビリテーション病棟の開設・増床を働きかける」 必要があります。

 但し、上記の働きかけが一番困難なタスクであり (当ブログ管理人も困っていますが・・・)、各医療機関のポリシー、財務事情、リハビリテーション・マンパワー等も絡みます。
 地域リハビリテーション支援事業のマンパワー・予算が潤沢であれば、「当該医療機関へのリハビリテーション・マンパワーの派遣」、「充分なリハビリテーション機能を持つストロークユニット (脳卒中専門病棟)・回復期リハビリテーション病棟の開設の促進」、あるいは 「熊本方式等の地域リハビリテーションシステム構築」 等が出来るのですが・・・。(それだけのことをする価値は充分あるのですが・・・)。

(6)以上、脳卒中急性期医療をめぐる課題と展望 (リハビリテーション) に関する考察等を述べました。

 上述の通り、超急性期・急性期~回復期~維持期の各ステージの脳卒中医療体制・リハビリテーション体制が確立し、且つ、充実した脳卒中医療連携体制および地域リハビリテーション連携ネットワークの構築が実現すれば、実際の脳卒中医療において、『濃厚な急性期治療ならびに充分な早期リハビリテーションが実施されることにより、脳の損傷が最小限に抑えられ、且つ 「医原性」の二次的合併症・障害 (廃用症候群・過用症候群・誤用症候群) の出現も防止でき、そして、その後、充分な回復期リハビリテーションが行われることにより、「可能な限りの障害の回復が得られ、余計な障害も作られることなく」、介護保険・福祉に円滑に受け継がれる』という理想的な流れが得られると思います。

 但し、地域リハビリテーション活動には、医療制度・診療報酬問題 (疾患別リハビリテーション体系・単価の減額、リハビリテーション算定日数制限、回復期リハビリテーション病棟の成果主義、障害者施設等入院基本料からの脳卒中・認知症患者の除外、後期高齢者医療制度等) ・介護報酬問題 (要介護認定の厳格化、介護給付費の抑制、支給限度額等)・障害者自立支援法 (応能負担→一律1割の応益負担、年収制限の厳格化、障害区分認定問題) 等も大きく影響します。

 したがって、医療難民・リハビリ難民・救急難民・脳卒中難民・認知症難民・介護難民・障害者難民等を防止するためにも、厚生労働省の医療・介護・福祉政策の策定・施行に対して、エビデンスを掲げて、良い意味での影響力を行使するのも、地域リハビリテーション活動の一つと思われます。

 また、地域リハビリテーション支援事業の実効性をより高めるためには、当該事業の実施に、厚生労働省の老健局・保険局・医政局・健康局・障害保健福祉部の横の連携・コラボレーションが肝要と思われます。

【関連記事】 (本文中に引用した関連記事は除く)
 ◎障害者施設等入院基本料・算定要件の解釈の厳格化
 ◎回復期リハビリ病棟への成果主義の導入 (厚労省保険局医療課の見解)
 ◎リハビリ算定日数制限 (厚労省保険局医療課の見解)
 ◎地域包括ケアの実現に向けて (講演:厚生労働省・宮島老健局長)
 ◎平成20年度リハビリ診療報酬改定 (日本リハビリ医学会の総括)
 ◎ 「リハビリテーション医療のあり方」 日病協の提言
 ◎6万床時代を迎える回復期リハビリ病棟 (回リ協・会長講演) ①
 ◎6万床時代を迎える回復期リハビリ病棟 (回リ協・会長講演) ②




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脳卒中リハビリテーションにおける 「早期離床」

 脳卒中の急性期リハビリテーションにおいて、「合併症の予防・廃用症候群の予防」・「早期離床」・「早期リハビリテーション」 が肝要です。

(1) 「早期離床」 の定義
  (栗原正紀 「続・救急車とリハビリテーション」:119-120, 2008)
 早期離床とは、可及的速やかに、食事はベッドの上ではなく食堂で、排泄もまたベッド上ではなく車椅子を用いてもトイレで、整容は洗面所などで、実施できるようにしていくということであり、結局、寝る時だけがベッドというように、明確に場を分離して極力早く日常の生活パターンに戻すということになります。

続・救急車とリハビリテーション―高知から長崎へ 回復帰リハ病棟への熱い想いをかたちに続・救急車とリハビリテーション―高知から長崎へ 回復帰リハ病棟への熱い想いをかたちに
(2008/01)
栗原 正紀

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(2) 回復期リハ病棟のケア:10項目宣言
  (2003年9月:全国回復期リハ病棟連絡協議会・看護研修会)
 ①食事は食堂やデイルームに誘導し、経口摂取への取り組みを推進しよう。
 ②洗面は洗面所で朝夕、口腔ケアは毎食後実施しよう。
 ③排泄はトイレへ誘導し、オムツは極力使用しないようにしよう。
 ④入浴は週2回以上、必ず浴槽に入れよう。
 ⑤日中は普段着で過ごし、更衣は朝夕実施しよう。
 ⑥二次的合併症を予防し、安全対策を徹底し、可能な限り抑制は止めよう。
 ⑦他職種と情報の共有化を推進しよう。
 ⑧リハ技術を習得し看護・介護ケアに生かそう。
 ⑨家族へのケアと介護指導を徹底しよう。
 ⑩看護計画を頻回に見直しリハ計画に反映しよう。



 上記 (1) の 「早期離床」 の定義に対して、急性期病院の医師・看護師・リハビリテーションスタッフの中で違和感を持つ方も少なからずいると思います。

 急性期病院の医療スタッフは、「早期離床」 というと、脳卒中の種類・臨床病型・病態像別の離床開始基準を厳格に適用しながら、「早めに起こして車椅子に乗せる」、即ち、リスク管理の基、ベッド上臥位→坐位→車椅子移乗 (→起立→歩行) へとステップアップすることであり、 (1) の様なことまでは想定していないスタッフも少なくないと思われます。また、上記 (2) ①~⑤に挙げられているように、 (1) については回復期リハビリテーション病棟に転院してからの話と思われがちです。

 急性期病院では、医療スタッフが、脳卒中に対する濃厚な急性期治療の方に傾注せざるを得なく、また、ハードウェアの問題 (病室の広さ・車椅子トイレ・食堂・片麻痺用浴槽等の整備状況等) 、ソフトウェアの問題 (看護&ケアスタッフ・リハビリテーションスタッフのマンパワー不足等)、および患者さんの合併症・併存疾患・リスク、等にて、 (1) の様なアプローチが困難な病院も少なくないと思われます。

 しかしながら、ストロークユニット (脳卒中専門病棟) あるいは通常2週間以内に回復期リハビリテーション病棟に転院させるような急性期病院以外の急性期病院においては、上述の諸問題があるにしても、徹底したリスク管理の基、できる限り (1) に則った 「早期離床」 アプローチを行い、極力早く日常の生活パターンに戻すことがベターと考えられます。そしてそれが早期退院・在院日数の短縮に繋がると考えられます。




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