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多田富雄の落葉隻語 目に付く 「李下に冠」

 以前の当ブログ記事 『脳卒中患者 リハビリ医療を奪われた 「棄民」 (多田富雄氏)』にて紹介した、免疫学の世界的権威であり、また、脳梗塞による重度後遺症の御身で、卓越した情報発信力・揺るぎない信念にて厚生労働省の 「リハビリテーション算定日数制限問題」 等の理不尽な政策を糾弾してこられた多田富雄・東京大名誉教授が、読売新聞 (多田富雄の落葉隻語 目に付く 「李下に冠」) に辛辣な文章を寄稿されています。
 
●多田富雄の落葉隻語 目に付く 「李下に冠」 (読売新聞 2009/3/18)

 「李下に冠を正さず」。他人の嫌疑を受けやすい行為は避けるようにせよの意 (広辞苑)。

 このごろ 「何歳になっても入れます」 という医療保険のコマーシャルがやけに多くなっているとは思いませんか。テレビをつけると、いやでもそんな声が耳につく。

 話は2001年の小泉内閣の規制緩和に遡 (さかのぼ) る。いち早く保険業の規制が大幅に緩和されて、医療保険やがん保険が急速に拡大した。しかしその裏では、社会保障分野の予算が、年間2,200億円も抑制されることが了承された。

 もちろん備えあれば憂いなし。医療保険に入っておくことは、このご時世身を守るのに大切なことである。

 しかしこの規制緩和が国会を通過すると、やがて後期高齢者医療制度が強行採決され、老人の医療費削減が行われる下地ができた。病気の 「自己責任論」 まで囁 (ささや) かれ、公的保険の医療給付が制限されるレールが敷かれた。60歳でも70歳でも入れる、アメリカ型の医療保険の需要は拡大した。それに加入して、成人病の治療は自己責任でやりなさいと、公的保険の給付を制限する口実ができた。

 この保険業の自由化をいち早く推進したのは、オリックス会長が議長を務めた、小泉内閣の規制改革・民間開放推進会議だったとは、ちょっと出来すぎだとは思いませんか。この会議では、従来認められていなかった混合診療を解禁し、国民皆保険を揺るがすような議論がなされた。民間の医療保険商品を売り出すチャンスが着々と作られたのである。

 後期高齢者医療制度の発足に伴う、民間医療保険の需要を見越して、いち早く保険業の規制緩和を図ったという意見もある。シナリオはこのころから用意されていたのである。

 「かんぽの宿」 の一括売却についての問題が、新聞を賑 (にぎ) わしているが、鳩山総務大臣は 「李下に冠を正さず」 と批判した。シナリオの始まりは、ここでも規制改革・民間開放推進会議からである。その議長の系列会社のオリックス不動産が安値で買うのは、どうしても疑念を招く。そんなのは下司 (げす) の勘ぐりといわれようが、疑念というものはそんなものだ。

 もうひとつの例は、私の関係してきたリハビリ日数制限に関する疑惑である。06年4月から脳卒中患者のリハビリは、発病後180日までと制限された。その結果、180日で回復できなかった患者の機能が、急速に悪化した例が多発した。命綱と頼んだリハビリを打ち切られて、命を落とした人さえあった。慢性期、維持期の患者が犠牲にされた。

 この理不尽な制度を作った厚労省は、「効果のはっきりしないリハビリが漫然と続けられている」 と、高齢者リハビリ研究会の指摘があったというが、そんな指摘は議事録にはなかった。むしろ、この制度を擁護し続けたのは、厚労省寄りの 「全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会」 の会長であった。

 維持期のリハビリ打ち切りは、もっと早期に行われる回復期リハビリを充実させる政策とセットになっていた。回復期のリハビリを充実させることには、誰も異論はないが、その代償として、維持期、慢性期患者のリハビリ治療を犠牲にするのはあまりにも残酷である。それに回復期リハビリ病院の理事長が、自分の利益となる改定の擁護をしているのは、どうしても疑惑を招く。

 その証拠に、制度発足から3年後の今、重度の維持期の患者が、リハビリ難民として苦しんでいるのに対して、回復期の患者を選択的に入院させる回復期リハビリ病院は繁栄を誇っている。難民となった維持期患者の医療費は、そっくり回復期の病院に回っている。利益誘導の疑念を持たれても仕方がない。

 この当事者にも、「李下に冠を正さず」 という言葉をささげたい。

 上記に関する当ブログ管理人の考察・結論は、下記の通りです。

(1)上記のように、多田名誉教授が、「李下に冠を正さず」 (他人の嫌疑を受けやすい行為は避けるようにせよの意:広辞苑) というキーワードで、のっけからフルスロットルにて、社会保障費の毎年2,200億円の抑制を初めとした小泉竹中構造改革の負の遺産 (特に、格差社会、医療崩壊、自己責任論、社会保障等のセーフティネットの破壊) を切り捨てています。

(2)米国・外資の圧力による規制緩和により、民間医療保険があっという間にのさばりました。一方、その裏で、あるいは、そのために、後期高齢者医療制度の導入 (与党の強行採決) 等による 「公的医療保険の医療給付の抑制・制限」 が敢行されました。

 結局、米国・外資は潤っていますが、逆に日本国民に大きなしわ寄せが来て、医療難民・救急難民・リハビリ難民・介護難民・障害者難民等が生じています。

(3)本来、構造改革の真の目的は、「国民の血税に巣食う政官業癒着の既得権益構造の破壊」 ですが、「民間医療保険の拡大」・「日本郵政の宿泊保養施設 (かんぽの宿) の一括売却問題」・「日本郵政の旧日本郵政公社時代の不動産売却問題」 等により、(既得権益の廃止のはずが)、「既得権益が、ある特定のグループに移転しただけ」 という構図が表面化しました。

(4)多田名誉教授は、上記(3)の 「ある特定のグループ」 に対して、「李下に冠を正さず」 と断罪しています。

 また、このグループを野放しにすると、混合診療や保険免責制等を導入して、国民皆保険を揺るがす危険性があると警鐘を鳴らしています。

(5)一方、多田名誉教授の怒りは、リハビリテーション算定日数制限とそれにまつわる 「全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会長」 疑惑にも及び、「李下に冠を正さず」 と断罪しています。

 この件に関して、当ブログ管理人は、リハビリテーション関係者として、「診療報酬における回復期リハビリテーション病棟の導入」 は、リハビリテーション医療の発展に貢献したと評価しています。
 但し、成果主義の導入は時期尚早であり、「患者選別」 等にて、かえってリハビリテーション医療を混乱させていると思っています。

 「全国回復期リハビリテーション病棟連絡協議会長」 疑惑に対する多田名誉教授の怒りは、うなずける点もあり、当事者には 「透明性と説明責任」 を充分果たす必要があると考えられます。

(6)以上、『多田富雄の落葉隻語 目に付く 「李下に冠」』 について論じました。

 我々リハビリテーション・スタッフは、「李下に冠を正さず」 の精神のもと、患者さん・障害のある方・介護サービス利用者等の信頼を裏切らないよう、誠実に行動すべきと痛感させられました。
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